2004.01.1発行2004年【新春特別対談】
2004.01.01発行 【新春特別対談】
風と住まいの未来
『優れた住宅換気システムが、よりよい住環境をつくる』
いま、「シックハウス」の問題にもとづく「24時間換気の義務化」に代表されるように、「住まいと人・住まいと健康」を考える上で、住宅「換気システム」の重要性がますます高まってきている時代だと思われます。
新しい年の幕開けとなる今号では、福岡大学の須貝教授をお訪ねして、住宅の換気システムが、これからのより快適な住まいづくりに果たすべき役割を考察してみました。
SEASONS COLUM SPECAL TALK SESSION -風と住まいの未来-
『優れた住宅換気システムが、よりよい住環境をつくる』
いま、「シックハウス」の問題にもとづく「24時間換気の義務化」に代表されるように、「住まいと人・住まいと健康」を考える上で、住宅「換気システム」の重要性がますます高まってきている時代だと思われます。
新しい年の幕開けとなる今号では、福岡大学の須貝教授をお訪ねして、住宅の換気システムが、これからのより快適な住まいづくりに果たすべき役割を考察してみました。
換気は「呼吸」
■須貝
「住まい」というのは、その土地の気候風土に大きく左右されます。日本の気候風土というのは、世界の先進国と比較した場合、ほんとうに気温が高くて、湿気が多い。雨の量が全然違いますから、とくに六月から九月にかけては、先進諸国の5~6倍も湿度が高くなる。気温が高い上に湿度も高いので、室内を密閉した状態のままにしておくと、あらゆるものにカビが生えてきて、腐ってしまいます。
ですから、日本の昔からの建物は、「風通し」が最大限よくなるように作らないとだめだったわけです。風通しがよくないと、木材に湿気がたまってしまって、家屋の強度がなくなってくる。そういう家は、台風があったりすると一気に崩れてしまいかねませんからね。
■大石
台風の影響も大きかったでしょうが、日本には「地震」というものもありますね。
■須貝
そうですね。台風とともに、日本の家屋は地震にも大きな影響を受けてきましたから、どうしても基礎をコンクリートで固めなきゃ安心できないということになってきたわけです。
コンクリートの基礎によって確かに強度は高くなりますが、その結果、風通しが悪くなってしまうと、木材の部分が湿 気でやられることにつながります。だから、やっぱり空気をうまく動かしていかなきゃ困るなぁということになるんですね。
■大石
私たちの会社では、もともとモータの製造から始まったのですが、今から30年近く前、とくにコストダウンで非常に安普請の住宅が作られていた当時に、創業者がある大工さんに「今の家は10~15年で床がやられてしまう」という話を耳にしましてね。そういった問題を「モータの力でなんとかできないだろうか?」と考えはじめたことが、床下換気扇の開発につながっていったんです。
■須貝
床下換気扇で問題になるのは、その換気扇が「いかに長持ちするか」ということですね。床下は見えない場所ですから、メーカーさんがどこまで長持ちする製品を作るかというのが最も重要なことなんです。
それに、定期点検などのアフターケアをしっかりやることも大事です。
■大石
私たちの床下換気扇の出発点は「いかに住宅を長持ちさせられるか」ということからでしたから、肝心の床下換気扇が1年で壊れてしまったら話しにならないわけですね。ですから、発売当初から「5年保証」にして、少なくとも15年以上は持つ仕様にしたんです。家電業界のメーカー保証の常識は1年だったんですが、うちは5年保証でいこうと。私たちの床下換気扇は、消毒業者さんとのタイアップから普及が始まりましたが、消毒薬はだいたい5年保証だったので、それと合わせて考えても5年がちょうどいいということだったんです。
木材を腐らせる「腐朽菌」とは
■長松
まだ勉強不足なんですが、「腐朽菌」、つまり木材を腐らせる菌の繁殖条件というのは、含水率や湿度でいうとどのレベルなんでしょうか?
■須貝
含水率が20%を超えると腐朽菌は繁殖します。湿度は80%~85%程度。90%以上になると繁殖率が飛躍的に伸びてきますね。ただし、湿度が80~85%でも空気が動いていたら大丈夫。風が通っていれば菌の根は残りますが、表面の部分は風に飛ばされますので、腐朽菌は発育しにくくなります。空気が動いていれば、多少湿度が高くても何とかなります。
■長松
含水率20%湿度80%以下で空気が動いてることが、理想だと。
■須貝
実験結果でも、床下換気扇を使うことによって木材の含水率が20%以下に抑えられていますね。こういう状態なら安心です
■大石
換気扇があるとないとでは、含水率がおよそ5%位の差がでていますが、この差が腐朽菌繁殖の境目になるということですね。このあたりは微妙で、床下に除湿機を入れ込もうという考えもあるんですが、逆に乾燥しすぎると、木材が反りすぎる場合も出てきます。木材は生きているわけですから、「自然な風・新鮮な空気を入れる」ということに、意味があるのではないかという気がします。
本当に怖い結露は「壁の中」にある
■長松
住宅は木造ばかりでなく、鉄骨のものもありますね。その際の湿気の問題、例えば私の住んでいるマンションなどは、冬場になると結露がひどいんですが。
■須貝
ガラス窓など室内の結露から発生するカビやダニの繁殖が大変です。
■大石
心配なのは、壁の中におさまっていて、結露が発生しても見えないところですね。
■須貝
日本の場合、地震への不安もあって、どうしてもコンクリートや鉄骨を使わざるを得ないので、躯体内の湿気を上手に抜くことも大切です。
■大石
家屋の強度は大切ですからね。換気システムをなんとかすることで、強度と換気を両立できる家になると思います。
■須貝
とにかく一番大事なのは、建物が長い間丈夫でいられることなんですよ。そのためには、空気をうまく流して、建物がいつまでも健全でいられるようにすることです。
■長松
鉄骨に接している壁の躯体内の換気も、天井裏の換気を十分にすることで、そこから抜けて、もっと長持ちする可能性があるわけですね。
■須貝
そういったことをメーカーや販売する人にしっかりと認識してもらって、エンドユーザーにいかに正確に納得できる情報を伝えるかを考えないといけません。そのためには、勉強するしかないんですけれどもね。
■大石
ユーザーの方も勉強熱心で、メールでの問い合わせも多いんですよ、業者の方では、リフォーム部門の方がお客様の家を壊すとき、内部の木材が結露で腐っているときなど、現実を知っていて困ってうちに来られるんです。現場の方は本当に困ってらっしゃるなあというのが実感ですね。
シックハウス法の落とし穴
■長松
最近では、「シックハウス法」にもとづく24時間換気が法令化されて、室内だけでなく天井裏まで、換気に対する意識が高まりつつありますね。
■須貝
たしかに天井裏などは、熱気がこもりやすい場所でもあります。特に温度が高くなれば、ホルムアルデヒド(シックハウスの原因となる科学物質)などがどんどんガス化してしまう。そして、24時間換気で居室が負圧になって、天井裏から室内に流れ込んでくるんです。
■大石
今まさに、それをテーマにしようとしています。いかに室内に流れ込まないように、24時間静かに換気扇を回して、天井裏を負圧の状態にしていくか。短時間に運転するだけじゃなくて、24時間、換気しつづけないと意味がないですから。当然、本来の目的は、天井裏の熱気ないし床下の湿気の排除ですが、そういったものはセンサー管理で、必要な時に必要な運転をする。それを複合させ、あくまでも第三種換気に対する補完商品というものに位置付けてゆくように考えています。
■須貝
西邦電機さんでは、シックハウス法にもとづいた有害物質の排除という機能とともに、湿気もうまく排除して、木材そのものの強度も強くしようという、換気の様々なメリットを考えたれた商品開発を行なっているわけでしょう。それは心強いですね。
■長松
24時間換気システムに関しては、ホルムアルデヒド関係はうたっていますが、湿気などについては全くうたっていなですね。先ほどお話に出た、冬の結露の問題などもあります。そういった点にも目を向けてもらえたら、床下や天井裏の換気扇が必要なものだということが、もっと認識されてくるという感じがします。
■須貝
そういった大事なことは、私たちはきちんと伝えていかなければいけませんよ。
一般的な住宅の広告では、基本的に「いいこと」しかアナウンスされませんからね。「欠点は何なのか」ということを販売する人、情報提供する人が自分で考えて、消費者の方に伝えることが大事なんですね。私もそのための一助になればと、『住まいづくり研究会』というのを開催しているんですが。
■大石
最近では、うちの施設へ見学に来られる建築家の方も増えてきていますが、床下や天井裏に関しては、それほど深い知識は得られていない場合が多いようです。
例えば、基礎パッキング工法の床下での空気の動き方などを見られて、さっそく今建てられている家に実験的に床下換気扇をつけてみようとか、そういったところから床下換気に対する認識があらためて始まっています。まあ、草の根的な運動ですけれども(笑)本当にいいものをつくって、その効果を弊社に来て実際にみていただき、納得した上で販売していただきたいという思いがあって、換気実験施設の視察制度を3年がかりで少しずつ積み上げてきまして、今では北海道から沖縄まで、1年に60~70社ほど来られるようになりました。売る方が納得できないと、消費者の方も納得させられませんから。
基礎パッキングも万全ではない
■長松
床下の換気を考える場合に、例えば最近増えてきた「基礎パッキング工法」や、「従来工法」など、それぞれの工法の特性を念頭に置くことも必要だと思いますが。
■須貝
基礎パッキング工法については、実験をやったことがあります。確かに従来の工法よりはいいんですが、なかなか思ったよりは風が抜けない。意外に難しい点があるんですね。
■長松
基礎パッキング工法の換気口は、通常の換気口より約1.4倍の面積があると言われていますが、私たちの実験では、風を外から当てても、実際はなかなか空気が動きませんでしたね。
■須貝
日本の場合、特に梅雨どきは危ない。梅雨期に床下や天井裏に入ってきた湿気が、空気を動かないと停滞します。だから例え基礎パッキング工法を採用していたとしても、換気が完璧だと思ってはいけないですよ。
■大石
実際、空気は目に見えないものですから、われわれが販売しているものがどれ位の効果があるのか、本当に空気の流れを作り出せているのかというのは、なかなか伝わりにくいわけです。同時に私たちとしても、自社製品の効果をきちんと検証したい。そういったことから、自社内にシミュレーションができる施設を設けているんです。ちなみに当社製品と基礎パッキング工法との相性は、抜群にいいですね。
「空気は隅々まで動かす」ことが大事
■須貝
床下や天井裏の換気扇についてもう1つの問題は、ただ単純に「換気をする」機能だけではなくて、「空気をいかに動かすか」という性能もポイントになってきます。湿気が特にこもるのは、空間の四隅、空気が動きにくい端っこのところなんですね。だから、空気を出し入れするだけじゃだめであって、空間全体の空気をうまく動かしてやらないといけないんです。空気が動いていれば、例えカビが発生したとしても、大事には至らないですからね。逆に言うと、いちばん空気の流れが悪いところをどこまで改善できるか、ということなんです。
■大石
私たちもその点には注目していまして、この度、従来製品の7倍程度の静圧力を持った商品を開発しました。これにディフューザーを付けると、風速7~8mの風が勢いよく吹き出し、壁にぶつかって返ってきます。それを繰り返すことで、活発な空気の流れが出来るんですね。「停滞する四隅の空気をいかに動かすかが大事」ということでしたが、このディフューザーノズルを使えば、床下などの四隅の空気も停滞することはなくなるということです。また、当然、排気システムをつけますから、常に新鮮な空気と入れ替わります。基本はあくまでも、「自然の風」を強制的に作り出すということですから。
次のキーワードは「床下森林浴」
■大石
これは新しい試みなのですが、ディフューザーノズルを付けた風の吹き出し口に、フィトンチッド-樹木が自分の身を害虫から守るために出す天然エキス成分-のカートリッジを装着することで、床下を木の香りで満たすことができるようにしました。
■須貝
その木の香りが出るフィトンチッドのカートリッジは、どの位もつんですか?
■大石
一度に大量に出せば気化が早く、寿命も短いですが、当社のものは、ジワリジワリと成分を気化させるやり方で、およそ8~10カ月位はもたせることができるよう設計しています。
■長松
それと、フィトンチッドは樹木が出す天然の抗菌材みたいなもので、天然物質だから安心できます。
■大石
例えば床下収納を開けた時など、フッと木の香りが漂うと、お客様も安心感があるんじゃないかと思います。
■須貝
「床下の森林浴」みたいなものですね。
■大石
このフィトンチッドはもともとアメリカ製のもので、室内用に開発されたものなんですが、それをなんとか床下に応用しようという、初の試みですね。
■長松
抗菌作用のほかに、虫が寄りつかないように木が自分で出す成分ですから、シロアリなどの防虫効果もあるのではないかと思います。この成分を床下に満たしてやることで、床下環境を更に改善するという発想のもとでやっています。
「自然の力」という原点「先人の知恵」という未来
■須貝
いずれにしろ床下の湿気対策、シロアリ対策については、そういった強制的な換気によって湿気をなくすことが必要ですね。それともう一つは、私も実験でやったことがあるんですが、「炭」ですね。床下に上手に炭を敷く。木はもともと軽い物で、それだけ繊維が空気を多く含んでいるということですが、炭になるともっともっと軽くなる。つまり隙間だらけになりますから、吸湿力がすごいんですね。湿気を吸収する以外にも、害虫を寄せつけないとか、炭には何かパワーがあると思います。
■大石
私たちも『竹炭マット』を床下に敷いてパンのカビ実験を行ったんですが、たしかにカビが発生しにくかったですね。
■須貝
そういう炭の利点をみても、「木」というのは素晴らしくいいものなんですね。その木でつくった家をできるだけ長持ちさせるには、やっぱり湿気をうまく放出させること。そして通風をよくして常に空気を動かすと。空気を通すと木の繊維が強くなりますから、木を使った家も強くなって寿命も伸びて、安心して住めるということにつながります。木を元気に保つことが、住まいの寿命を伸ばすんですね。例えば、法隆寺が何でもっているかっていうのは、自然の風がうまく通るような、そういうかたちの建築をしているからなんですね。
■大石
法隆寺や正倉院など過去の建築は、今の建築が幼く思えるほど、すごい技術がありますね。
■須貝
すごい技術があって、木の建物は長持ちするんです。それによって、台風にも地震にも強くなりますね。
■大石
建物の強度、気密を保ちながら、いかに換気をするかということですね。また、家屋の構造はいろいろとありますから、それぞれに対応できるようにしておくことも重要です。
そういった様々な要素を踏まえた上で、どこに座標を置くかとなると、やっぱり日本の気候風土にあったモノづくりということで、「先人の知恵」がいちばん頼りになるんですね。そういった基本となるべきことを押さえた上で、新しい技術でどう応用していくかを考えないと、本質からはずれたメーカー間の競争のための競争になってしまいます。
■須貝
基本は「住まいをいかに長く、健康に保つか」ということです。不健康な住まいで、健康的な暮らしは難しい。例え建築基準法通りにきちんと換気口を設けていたとしても、空気が動かなかったら終わりなんです。空気が動かなかったら、どこかでカビが発生し、木の強度もなくなるんですよ。だから最小にして最大の効果を生み出せる『換気システム』を上手に活用してゆく。湿気を排除して木材を強くし、家屋の強度を上げると同時に、常に新鮮な空気を循環させる。それが、地震や台風にも安心できる、健康な住まいにつながるということです。
■大石
本当に必要なモノや機能を考えていくと、非常にシンプルなものになっていくんですが、メーカーとしてはやっぱり勝たなきゃいけないので、余計なことをよくやるんですね(笑)。そういう過剰な戦いのステージからは、我々はちょっと降りて、本当に必要な機能を持った、住まいの寿命を伸ばすための製品開発を目指していこうと思いますし、西邦電機としての社会貢献は、そこにしかないと思います。